万引きの中毒性が分からない

○月✕日

駅のキオスクでペットボトルのお茶。入店直後にお茶を手に取り、しばらく駅弁を物色するが目ぼしい物がなくそのまま立ち去る。このとき手に持っているお茶の存在を忘れて持ち帰ってしまう、という設定。設定に信憑性を増すため、もともと手荷物を多めに持っていると良い。特に新幹線のりば付近だと、気ぜわしく手元がおろそかになっている雰囲気が出やすい。



○月✕日

スーパーマーケットでトイレットペーパー(12ロール入り)。まずスーパーで食品などの買い物をし、普通に会計を済ませてレジ袋に品物を詰める。その後いったん退店し、買い忘れを思い出したふうを装って再入店する(この流れは省略可)。レジ袋を手にぶら提げた姿で、さもこれから買うかのようにトイレットペーパーを棚から取り、そのままレジの横を通って堂々と退店する。これはスーパーマーケットが2階建てで1階にのみレジがある場合など、トイレットペーパーの棚からレジまでの道のりが長いほうがハードルが低い。



○月✕日

ドラッグストアでリップクリーム。ドラッグストアでは店の外側にも商品が陳列されているため、気になって棚に近づいたものの入店には至らず去るという行動が取りやすい。外気に触れる店外の棚にある商品を取って裏のラベルなどを一瞥したあと、興味を失って棚に戻したと見せかけ、実は商品を握ったままの手をコートのポケットに入れて立ち去る。このとき両手とも同時にポケットに突っ込むことで、寒さを理由とした自然な振る舞いを装える。特に、屈まないと商品を取れないような低い位置に陳列棚がある場合だと、商品の出し入れに体が大きく上下動するので手元の動きが目立ちにくい。



○月✕日

書店兼雑貨屋でアロマオイル。手狭な店舗は棚と棚の間に死角が多く店員の人数も少ない。まず手のひらに握り込めるサイズの小瓶を棚から取り、いかにも買うつもりで手に持ったまま他の商品を物色しつつ、死角になりやすい位置に移動する。そこで本棚の背表紙を眺めたり手に取るなどして長めに滞在時間をとり、自分の手元が店員や他の客の視線から完全に死角となるタイミングを窺う。その瞬間が訪れたら、商品を握っているほうの手首に提げた紙袋の中に商品を落とす。袋は透明でないビニール袋やトートバッグでもよいが、手首に提げた状態で自然に袋の口が大きく開いているもので、持ち手の長さが短いものが良い。そうすると、一連の行為の要となる部分が、握った手の真下に袋の口がくるように位置を調整し、握った手をゆるめるだけの非常に小さい動作で完了する。その後は、間違っても袋の中身を覗き込まれることが無いよう、なるべく店員には近づかずに店を出る。



○月✕日

コンビニでおにぎり。セルフレジのあるコンビニに入店し、お茶やおにぎり、パンなど数点の商品を手に取る。セルフレジにて会計をする際、まずレジ袋の口を開き、商品を入れる態勢を整える。その後、1点ずつ商品をバーコード読み取り機にかざしては袋に入れる動作を繰り返す。このとき、数店の商品のうち1点だけ、バーコードのついていない箇所をかざすなどして故意に読み取りを漏らす。当然、読み取りを漏らすとピッという読み取り音が鳴らないので、できれば隣接して2つ以上セルフレジがあり、かつどちらも利用者が途切れない程度に混んでいる状況が望ましい。それならば、隣のセルフレジの読み取り音を自分の音と誤認して読み取り漏れに気づかなかった、というシナリオが成立する。すべての商品を袋に入れた後は、セルフレジの画面に表示される商品や金額をよく確認せず速やかに会計を済ませて退店する。



○月✕日

雑貨店でお香。手のひらに握り込んで隠せるサイズのお香を手に取り、その他の商品も何点か取る。このとき、タオルなど嵩張る商品を混ぜておくと目くらましになりやすい。手に取る商品の数は、レジで店員が商品のバーコード読み取り作業に気を取られる時間を引き延ばすために、なるべく多めにするとよい。しかし、商品カゴを使うと商品を「手に」持っている状態に違和感が生まれるため、商品カゴは使わなくて済むよう片手で持ちきれる程度に抑えておく。レジに並び会計をする際に、片手で持った何点かの商品をレジカウンターに置いてから、もう片方の(商品を握り込んでいたほうの)手を鞄に入れて商品を安置し、そのままその手で鞄から財布を取り出して支払をする。




(※この小説はフィクションです。)